2025年ハンドボール競技規則変更の概要
2025年3月1日付けで、国際ハンドボール連盟(IHF)競技規則審判委員会(PRC)は、2025年7月1日に施行する競技規則書を発行しました。日本ハンドボール協会においても、IHF同様2025年7月1日より施行されます。ただし、2025年度内の各種大会における適用開始時期については、連盟の判断に任せることとされています。
以下に主な変更点をまとめます。
重要なポイント
- 2025年7月1日より新ルール施行
- チーム構成人数の増加(14名→16名)
- ゴールエリア侵入の定義変更
- 罰則適用の整合性向上
ベンチ入りのプレーヤーおよびチーム役員の人数
チームを構成するプレーヤーの人数が14名から16名に増加されました。また、競技中に置くことができるチーム役員の人数も4名から5名に増加されています。これにより、より多くの選手が試合に参加できる機会が増え、チーム運営の柔軟性も高まると考えられます。
ゴールエリアへの侵入の定義
「ゴールエリアに侵入する」の定義が変更されました。変更前は「ゴールエリアラインに触れるということではなく、明らかにゴールエリア内に踏み込むこと」とされていましたが、変更後は「ゴールエリアラインに触れること、または明らかにゴールエリア内に踏み込むこと」と定義されました。これにより、ゴールエリアラインに触れる行為も侵入と見なされるようになり、判定基準がより明確になりました。
定義変更の影響
ゴールエリアラインに「触れる」だけで侵入とみなされるため、これまでより厳格な判定となる可能性があります。選手は特に注意が必要です。
7mスローの際のゴールキーパーの頭部へのシュート直撃
7mスローの際に、シュートを阻止する目的でボールの方向へと頭部を動かしていないゴールキーパーの頭部にボールをぶつける行為について、変更前は「失格と判定すべき著しくスポーツマンシップに反する行為」として記載されていましたが、この記載が削除されました。
この変更の背景には、近年の競技規則変更により、ゴールキーパーとの1対1の状況で打ったシュートがゴールキーパーの頭部に直撃した際は即座に2分間退場を判定すべき行為として記載されたことがあります。同様の行為に対して罰則適用の重さが異なっていたため、今回の変更により整合性が取られることになりました。また、ボールの質が変わり、直撃しても重篤な状況になる報告が近年なかったことも考慮されています。
終了合図後のフリースローの際の防御側プレーヤーの頭部へのシュート直撃
競技規則2:4による終了合図後のフリースローの実施に際して、シュートを阻止する目的でボールの方向へと頭部を動かしていない防御側プレーヤーの頭部にボールをぶつける行為について、変更前は「失格と判定すべき著しくスポーツマンシップに反する行為」として記載されていましたが、この記載も削除されました。
これも7mスローと同様に、ゴールキーパーあるいは防御側プレーヤーの頭部にボールが直撃するという同様の行為に対し、罰則適用の整合性を取るための変更と考えられます。
チーム役員がコート外からのボールやプレーヤーに触れることで競技を妨害する行為
コートの外側に立っているチーム役員が、チームに指示を与える際に誤ってボールやプレーヤーに触れ、競技を妨害する行為について、変更前は「報告書を伴う失格とすべき極めてスポーツマンシップに反する行為」として扱われていましたが、今回の変更では「即座に2分間退場を判定すべきスポーツマンシップに反する行為」として明文化されました。
この変更は、「誤って」という行為について、違反の質についての解釈を明文化したものと考えられます。ただし、「戦術指示中と装って、意図して妨害するケース」と「誤って」妨害するケースは違反の質が異なるため、レフェリーやテクニカルオフィシャルの判断が重要となります。
スローオフエリアを伴うコートにおけるスローオフの実施
スローオフエリアを設置したコートでのスローオフについて、変更前は「ボールがスローオフエリアの中にあり、少なくともスローを行うプレーヤーの片足がスローオフエリアの中にあるとき、レフェリーはスローオフの笛を吹くことができる」とされていましたが、変更後は「ボールとスローを行うプレーヤーが完全にスローオフエリアの中にあるとき、レフェリーはスローオフの笛を吹くことができる」となりました。
この変更により、スローオフ実施の笛がいつ吹かれるのかがより明確になり、正しいスローの実施につながると考えられます。
競技開始前のスポーツマンシップに反する行為
競技開始前のスポーツマンシップに反する行為に対しては、競技規則8:7~8により警告とすることが明文化されました。その警告はプレーヤーやチーム役員、チームに対する警告の総数に加算されます。これにより、競技開始前のスポーツマンシップに反する行為の取り扱いが明確になりました。
レフェリーの判定で罰則の重さについて見解が異なる場合
両レフェリーが1つの違反に対して笛を吹き、どちらのチームの違反としなければならないかについては一致しているが、罰則の重さについて見解が異なる場合、変更前は「重い方の罰則を適用する」とされていましたが、変更後は「両レフェリーで協議の上決定した判定を適用する。両レフェリーでの協議が合意に至らなかった場合は、重い方の罰則を適用する」となりました。
これは、「どちらのチームがボールを所持するかについて両レフェリーの見解が異なった場合は、両レフェリーが協議した末に合意した判定を採用する」と同様に、罰則の重さについての見解が異なった場合でも、両レフェリーが協議して決定することを重視した変更と考えられます。
ビデオ判定システム(VR)の使用
レフェリーはビデオ判定システム(VR)規定に則り、試合の中でVRを使用することができることが明文化されました。どの試合でレフェリーがVRを使用するかは、IHF大会、大陸連盟大会または国内連盟が判断します。この条文を受け、(公財)日本ハンドボール協会では、国内大会において、各連盟(主催者)の権限でその使用の有無を定めることができるとされています。
技術の進歩
ビデオ判定システムの導入により、より正確で公平な判定が期待されます。ただし、使用可否は大会主催者の判断に委ねられています。
パッシブプレー
パッシブプレーに関する競技規則の適用について、これまでの通知・通達が整理されました。パッシブプレーの目的として、以下が挙げられています:
- 競技中における無意味な局面を減らすこと
- 魅力に欠ける展開や意図的な遅延を競技から排除すること
- 競技の中断の回数を減らすこと
- 防御側チームの積極的な防御活動を促進すること
また、消極的な行為が起こりやすい状況や、レフェリーが消極的なプレーの傾向を判断する基準、予告合図の活用方法などが詳細に示されています。
服装や保護を目的とした装具に関する規定
コートプレーヤーの長ズボンの着用は認められていませんが、タイツや長いサイクリングパンツ等は使用できるとされています。国内大会では、短パンと同色または黒色(短パンと異なった色であっても)であれば、医療的配慮、低気温等に防寒対策を目的とした長ズボン、タイツ、長いサイクリングパンツ等、複数の部位を覆うものの使用が認められています。
まとめ
2025年ハンドボール競技規則の主な変更点:
- チーム構成人数の拡大(16名まで)
- ゴールエリア侵入の定義明確化
- 罰則適用の整合性向上
- ビデオ判定システムの導入
- パッシブプレー規定の整理
- 服装規定の柔軟化
以上が2025年ハンドボール競技規則の主な変更点です。これらの変更は2025年7月1日より施行されますが、2025年度内の各種大会における適用開始時期については、連盟の判断に任せることとされています。